多くの企業が直面する課題である「離職防止」。従業員の離職率を低減し、持続的な成長を遂げるためには、具体的な対策が必要です。
本記事では、「離職防止のアイデア」をテーマに、成功事例を交えながら、実践的な12の施策を紹介します。職場環境の改善や人事制度の見直し、福利厚生の充実など、多岐にわたるアプローチを通じて、従業員の満足度とエンゲージメントを向上させる方法を解説します。
自社に適した対策を見つけ、効果的に実行するためのヒントを得て、離職防止に向けた第一歩を踏み出しましょう。
離職防止のためには離職原因の分析が重要
離職を防ぐためには、従業員がなぜ辞めるのか、その原因を正確に把握することが必要です。離職原因を分析することで、企業は具体的な改善策を講じることができ、離職率の低下に繋がります。ここでは、以下3つの観点から詳しく解説します。
- 退職理由の本音と建前
- 厚生労働省のデータから見る主な退職理由
- 定期的な社員アンケートの活用
退職理由の本音と建前
退職時に従業員が伝える理由には、本音と建前があるといわれています。
一般的に、従業員は「新しい職種にチャレンジしたい」や「別の業界に挑戦したい」といった前向きな理由を挙げることが多いです。しかし、実際の退職理由は「職場の人間関係が悪い」や「給与が低い」、「会社の将来性に不安を感じた」といったネガティブな要因が多くを占めます。
従業員が本音を隠すのは、円満に退社したいという思いや、本当の理由を言っても理解されないという不安からです。離職防止には、従業員が本音を言いやすい環境を整え、離職の兆候を早期に察知することが重要です。
厚生労働省のデータから見る主な離職理由
厚生労働省のデータによると、令和3年の転職入職者が前職を辞めた理由には男女で違いが見られます。
男性では「その他の個人的理由」が19.1％で最も多く、「定年・契約期間の満了」が16.5％、そして「職場の人間関係が好ましくなかった」が8.1％と続いています。女性では「その他の個人的理由」が24.6％でトップ、「定年・契約期間の満了」が12.3％、次いで「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」が10.1％という結果です。
また、前年と比べて上昇幅が大きかったのは、男性では「定年・契約期間の満了」が0.5ポイント増加し、女性では「会社の将来が不安だった」が1.1ポイント増加しています。
年齢別では、50歳代の男性は「会社都合」が多く、60歳以上の男女は「定年・契約期間の満了」が主な理由となっています。
このデータから、従業員が離職する背景には個人的な事情や契約の終了だけでなく、職場の人間関係や労働条件の問題が大きく影響していることがわかります。
定期的な社員アンケートの活用
社員アンケートは、従業員の意見や満足度を定期的に把握するための有効な手段です。アンケートの設計には、簡潔で具体的な質問を用意し、回答者が質問の意図を容易に理解できるようにすることがポイントです。
また、アンケートは匿名で実施することで、従業員が率直な意見を述べやすくなります。定期的なアンケートの実施により、従業員の満足度や意見の変化を継続的にモニタリングし、改善の進捗を確認することができるでしょう。
さらに、アンケート結果をデータとして分析し、具体的な改善策を講じることで、従業員のモチベーション向上や課題の早期発見が可能となります。
職場環境改善による離職防止アイデア
従業員が職場に対して満足感を持ち、長く働き続けるためには、良好な職場環境を整えることが不可欠です。特に、人間関係が原因で離職するケースは少なくないため、具体的な対策が求められます。ここでは以下の4つのアイデアを紹介します。
- 社内コミュニケーションの活性化
- 経営理念の浸透と共有
- 心理的安全性を高める取り組み
- 称賛と承認の文化の醸成
社内コミュニケーションの活性化
社内のコミュニケーションを活性化するためには、社内イベントやランチミーティングの導入、コミュニケーションツールの利用が効果的です。雑談を通じたコミュニケーションは、創造性と生産性の向上につながります。
具体的には、社員旅行や定期的な懇親会、成果共有や情報交換の場を設けることが有効です。また、ZOOMやSlack、Microsoft Teamsなどのチャットツールを導入し、いつでも相談できる環境を整えることで、従業員の満足度向上が期待できます。
経営理念の浸透と共有
経営理念は企業の進むべき道を示す重要な指針です。明確な経営理念は従業員の心の拠り所となり、離職防止につながります。
経営理念を浸透させるためには、トップメッセージの発信が欠かせません。会議の場や社内報、年始の挨拶時、社内コミュニケーションツールへの書き込みなど、社長自らが経営理念を言葉にして伝えることが重要です。
経営理念が全従業員に届き、共有されることで、企業全体の一体感が生まれます。
心理的安全性を高める取り組み
従業員が安心して働ける環境を作るためには、心理的安全性を高める取り組みが必要です。その一つとして、メンター制度があります。
メンター制度とは、先輩社員（メンター）が後輩社員（メンティ）に対して業務だけでなく、メンタル面やキャリア形成のサポートを行う仕組みです。後輩社員は一人で悩みを抱え込まずに、気軽に先輩社員に相談できるようになります。結果として、離職率の低下や業務に対するモチベーションの向上が期待できます。
ただし、メンターとメンティの相性が悪いと逆効果になることもあるため、メンターの人選は慎重に行う必要があります。社内基準を設け、適切なメンターを選ぶことが重要です。
称賛と承認の文化の醸成
称賛と承認の文化を醸成するためには、サンクスカードの利用が効果的です。
サンクスカードとは、紙やデジタルのカードに感謝の気持ちを記入して互いに送り合う制度のことです。「ありがとう」を伝え合うことで、送った側も受け取った側も明るく前向きな気持ちになります。
社内に感謝や称賛の文化が根付くことで、従業員同士のコミュニケーションも深まります。サンクスカードには紙とアプリの2種類があり、紙で送ることで手書きの暖かさが伝わりますが、アプリを使うことで手軽に感謝を伝え合うことができます。
人事制度の見直しと改善による離職防止アイデア
人事制度の見直しと改善は、従業員のモチベーションを維持し、離職を防ぐために非常に重要です。これから4つのアイデアを紹介します。
- 従業員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方の推進
- キャリアパスの可視化と明確化
- 公平で透明な評価制度の導入
- 定期的な1on1ミーティングの実施
従業員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方の推進
従業員が離職する理由の一つに、出産や育児などのライフスタイルの変化があります。働き続けることが難しい従業員を支援するためには、企業内託児所の設置が効果的です。
企業内託児所があれば、従業員は出勤と退勤に合わせて子どもを預けることができ、負担が軽減されます。また、休憩時間に子どもの様子を見に行けることで、安心感も得られます。「子どもや女性に配慮している企業」としてのイメージアップにもつながり、企業側にもメリットがあります。
費用はかかりますが、国や自治体からの補助金が出る場合もあるため、実施する際には確認が必要です。
キャリアパスの可視化と明確化
キャリアステップを可視化することは、従業員が将来のキャリアを見通しながら仕事に取り組むために重要です。
具体的には、役職や仕事の難易度、賃金などに応じて複数の階層を設定し、キャリアラダー制度を導入することが考えられます。各レベルごとに必要な能力やスキルが明示されているため、従業員は自分に何が足りないのか、次のレベルに上がるには何をするべきかを理解しやすくなります。
実施には業務目標の設定や評価システム、給料テーブルとの連動が必要であり、ある程度の時間を要しますが、公平性を保つことができます。
公平で透明な評価制度の導入
従業員が自身の能力に対する評価が不適切だと感じる場合、人事評価制度の整備が必要です。年齢や勤続年数だけでなく、個々の能力や成果も評価対象とすることが重要です。
上司だけでなく、同僚や部下からのフィードバックも取り入れ、成果だけでなく過程も評価することで、今まで気付かなかった面での貢献が見つかります。
公平で透明な評価制度は、従業員のモチベーションを維持し、離職を防ぐために不可欠です。
定期的な1on1ミーティングの実施
職場の人間関係の悪化や孤立が原因で離職するケースも多いため、チーム内・部署内の相互理解を深める施策が必要です。
1on1ミーティングやシャッフルランチ、プロフィール共有ツールの活用を通じて、お互いのバックグラウンドや考え方を共有することで、チーム内の心理的安全性が高まり、良好な職場環境が築かれます。
1on1ミーティングのメリットは、モチベーションの向上だけでなく、信頼関係の構築やキャリア形成の支援など多岐にわたります。職場の雰囲気が改善されることにより、離職率の低下につながるでしょう。
待遇改善と福利厚生の充実による離職防止アイデア
従業員が長期的に安心して働ける環境を提供するためには、待遇の改善と福利厚生の充実が重要です。以下4つのアイデアを挙げてそれぞれ詳しく解説します。
- インセンティブ制度の導入
- 柔軟な休暇制度の整備
- 社員の健康をサポートする福利厚生の充実
- 資格取得支援や研修制度の提供
インセンティブ制度の導入
給与や報酬に対する不満を持つ従業員が多い場合、インセンティブ制度の導入を検討することが有効です。努力した成果が適切に給与に反映されることで、モチベーションの向上だけでなく、従業員自身のスキルアップも期待できます。
インセンティブには金銭的なものだけでなく、昇進や昇格による評価インセンティブ、人間関係を良好に保つことでモチベーションを高める人的インセンティブなどがあります。
具体的には、業績や成果に応じたボーナス制度、特定のプロジェクト達成時の特別報酬、優秀な従業員に対する表彰制度などです。従業員が自身の成果を実感し、さらなる挑戦意欲を持つことができるでしょう。
柔軟な休暇制度の整備
リモートワークやフレックス制度など、従業員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を導入することを検討しましょう。
例えば、週に数回のリモートワークから始め、徐々に拡大していくことで現場の混乱を避けることができます。また、ワークライフバランスを整えるために、有給休暇の消化奨励日を設けたり、リフレッシュ休暇や病気休暇、ボランティア休暇などの法定外休暇を設けることも効果的です。
法定外休暇を導入する際は、管理職が積極的に活用することで、他の従業員も休暇を取得しやすい雰囲気を作り出すことが大切です。従業員のストレス軽減や満足度向上が期待できます。
社員の健康をサポートする福利厚生の充実
社員の健康をサポートするための福利厚生の充実は、離職防止に効果的です。企業は、定期健康診断やフィットネスジムの利用補助、メンタルヘルスサポートなど、多岐にわたる健康支援策を導入することで、従業員の健康維持を促進します。
他にも、健康相談窓口の設置やストレスチェックの実施、リフレッシュ休暇の提供など、従業員が心身ともに健やかに働ける環境を整備することが大切です。従業員の満足度が向上し、結果として離職率の低下につながるでしょう。
資格取得支援や研修制度の提供
多くの企業が従業員の資格取得を支援するために、費用補助や報奨金制度を設けています。日立INSソフトウェア株式会社では、認定資格の受験料補助や資格レベルに応じた報奨金（1万円から20万円）を支給しているのが一例です。
資格取得支援制度は、従業員のキャリア形成をサポートし、業務に必要なスキルを身につけるためのモチベーションを高めます。また、研修制度を充実させることで、従業員が最新の知識や技術を習得し、業務に活かすことができるため、企業全体の競争力向上にも繋がります。
離職率改善に成功した企業の事例
離職率の改善に成功した企業の事例を紹介します。紹介する企業は、独自の取り組みを通じて従業員の満足度を高め、結果として離職率の低下を実現しています。以下に、3社の成功事例を挙げて解説します。
- 株式会社鳥貴族
- サイボウズ株式会社
- アサヒビール株式会社
働きやすい制度や適正な評価に基づいた給与制度を用いて離職率が低下│株式会社鳥貴族
株式会社鳥貴族は、1年以内の離職率が20%と高い飲食業界において、2021年には入社後半年間の離職率8.1%という低い数字を実現しています。
まず、無断での残業や休日出勤を禁止し、長時間労働を抑制する仕組みを導入。これにより、従業員のワークライフバランスを保ち、働きやすい環境を提供しています。また、休暇制度の整備や子育て支援の充実により、ライフスタイルに合わせた働き方をサポートしています。
さらに、店長の最高年収を750万円に引き上げ、利益が出たら社員に還元する仕組みを導入することで、適正な評価と給与制度を確立。転職者にも新卒同様の研修を実施し、入社後のサポートを強化しています。
転居を伴う転勤がない「地域限定コース」の導入や、面接官による定期的な面談とフォローアップも行い、社内コミュニケーションの円滑化とキャリアアップ支援に力を入れています。社員は「自分は大切にされている」と感じられる環境が整っています。
このように、株式会社鳥貴族は従業員の満足度を高めることで、離職率の低下を実現しています。飲食サービス業界のように人の入れ替わりが激しい業界において、こうした取り組みが採用や教育コストの削減にもつながり、企業収益の向上に寄与する可能性があります。
ボトムアップ型の人事制度を導入して離職率が大幅低下│サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社は、社員が人事制度を考え構築するボトムアップ型の取り組みによって、離職率を28％から4％へ大幅に低下させました。このアプローチは、多くの企業がトップダウンで行う人事制度の設計とは対照的です。
サイボウズは最長6年間の育児・介護休暇制度を設け、在宅勤務や副業ができる「働き方宣言制度」を導入し、社員が個々の事情に応じた柔軟な働き方を選択できる環境を整えました。また、「働き方宣言制度」で宣言した以外の働き方を単発で許可する「ウルトラワーク制度」を開始し、家庭の事情に合わせて在宅勤務や時差出勤を可能にしました。
これらの制度により、社員は自分に合った働き方ができ、働きやすい環境が整いました。結果的に、社員の定着率が高まり、離職率の大幅な低下が実現しました。サイボウズの事例は、柔軟な働き方と社員主体の人事制度が企業の成長と従業員の満足度向上に寄与する好例です。
短時間正社員制度の導入で多様な働き方を実現した事例│アサヒビール株式会社
アサヒビール株式会社は、多様な働き方を実現するために短時間正社員制度を導入し、離職率の低下を図りました。育児や介護、自己啓発など、様々な理由でフルタイム勤務が難しい社員に対し、短時間勤務を選択できるようにするものです。
具体的には、短時間勤務でも正社員としての待遇を維持し、給与や昇進の機会も確保することで、社員が安心して働き続けられる環境を提供しています。社員は仕事とプライベートを両立させながらキャリアを築くことができ、企業へのロイヤルティが高まりました。
アサヒビールはこの制度を通じて、多様な働き方を支援し、従業員のライフステージに応じた柔軟な勤務形態を推進しています。結果的に、社員のモチベーションと満足度が向上し、離職率の低下に成功しました。
離職防止のためにツールを活用する
従業員のエンゲージメントを高め、職場のコミュニケーションを円滑にするためには、適切なツールの導入が重要です。特にリモートワークが増える中で、ツールを活用することで離職防止に大きな効果をもたらすことができます。
以下に、従業員のエンゲージメントを高めるツールと、社内コミュニケーションを支援するチャットツールについて紹介します。
従業員のエンゲージメントを高めるツール2選
従業員のエンゲージメントを高めるツールとして2つ挙げて紹介します。
- メタバース
- ピアボーナス
メタバースを活用することで、仮想オフィスでの会議やチームビルディング活動を行うことが可能です。物理的なオフィスに近い体験を提供し、リモートワークの孤立感を軽減できます。
メタバース環境では、従業員同士が仮想空間内でリアルタイムにコミュニケーションを取ることができるため、連携が強化され、生産性や満足度が向上します。
次に紹介するピアボーナスは、社員同士で報酬を贈り合う制度です。感謝の気持ちや評価をポイントやメッセージとして送り合い、後日それが実際の報酬として会社から支払われます。
ピアボーナス制度により、社員がお互いを尊重し合う風土が生まれ、エンゲージメントが向上します。チームの結束力が高まり、離職防止に寄与するでしょう。
社内コミュニケーションを支援するチャットツールの導入
社内コミュニケーションを円滑にするためには、効果的なチャットツールの導入が不可欠です。以下に、主なチャットツールを紹介します。
| ツール | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| Slack | チャンネルごとにコミュニケーションを整理できる強力なチャットツール | メッセージのスレッドやファイル共有機能も充実しており、プロジェクトごとに分かりやすく管理できる |
| Microsoft Teams | チャット、ビデオ会議、ファイル共有を一体化したプラットフォーム | Microsoft 365との連携が強力で、WordやExcelなどのファイルをリアルタイムで共同編集することが可能 |
| Workplace from Meta | Facebookが提供するビジネス向けのコミュニケーションツール | 使い慣れたFacebookのインターフェースを活用し、社内のコミュニケーションを活性化させることが可能 |
| Chatwork | 日本国内で広く利用されているビジネスチャットツール | シンプルで使いやすいインターフェースを持ち、タスク管理機能も搭載されている |
| Google Chat | Google Workspaceの一部として提供されているチャットツール | GmailやGoogle Driveとの連携がスムーズで、チーム内のコミュニケーションを効率化できる |
上記のツールを活用することで、社内のコミュニケーションが活性化し、従業員のエンゲージメントが高まります。適切なツールを選び、効果的に運用することで、離職防止につながる環境を整えましょう。
【まとめ】離職防止の取り組みは企業の持続的成長に欠かせない
離職防止のためには、従業員の離職原因を分析し、職場環境や人事制度、待遇改善と福利厚生の充実など、様々な面での対策が重要です。
成功事例から学び、自社に適した施策を見つけ、定期的に見直しと改善を行うことが、離職率の低減に繋がります。
大切なことは、自社の離職原因をしっかりと分析し、適切な対策を導入することです。まずは、簡単に始められる施策から取り組んでみましょう。今日から小さな一歩を踏み出し、離職防止に向けた具体的な行動を始めてください。
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