属人化が進むと、業務が一部の担当者に依存し、組織全体にさまざまなリスクをもたらすことをご存知でしょうか?例えば、特定の担当者が不在になった際に業務が停滞したり、業務の効率が低下したりするケースが少なくありません。こうした状況は、企業の成長を阻む要因となりかねません。
本記事では、属人化が引き起こすデメリットに加え、その解消に向けた具体的な方法を解説します。属人化を解消し、業務を標準化することで、組織全体の効率や品質を向上させるための実践的なヒントを提供します。属人化から脱却し、持続的な成長を目指しましょう!
属人化とは?属人化の解消が求められる理由
属人化とは、ある業務が特定の個人に依存し、その詳細が他のメンバーに共有されていない状態をいいます。業務の進め方や状況を特定の個人のみが把握していると、不在時に業務が停滞したり、品質が安定しなくなるリスクがあります。
属人化が進むと、業務が特定の個人に集中し、その人が不在になると業務がストップする可能性が高まります。さらに、属人化が進むと業務の透明性が失われ、改善や効率化を妨げる要因にもなります。したがって、多くの企業は属人化を取り除き、業務の標準化を図ることが重要視されています。
属人化の対義語は?
属人化に対する反対の概念は「標準化」です。標準化とは、業務の手順や方法を明確化し、誰でも同じように業務を遂行できる状態にすることを指します。
標準化によって、業務効率の向上、品質の一貫性の確保や、担当者が不在の場合のリスクの軽減などが期待できます。
属人化とスペシャリストの違いは?
属人化とスペシャリストは混同されがちですが、明確な違いがあります。スペシャリストは特定分野の専門知識やスキルを持つ人材を指し、その専門性ゆえに業務を任せられることがあります。
一方で、属人化は必ずしも高度な専門知識を要する業務に限らず、手順やノウハウの共有不足によって発生します。多くの場合、属人化している業務は、効果的な情報共有と業務の標準化を通じて、他のメンバーでも遂行できるようになります。
属人化のデメリットは?
業務が属人化している場合、さまざまなデメリットが生じます。
- 業務効率の低下
- 業務停滞のリスク
- 品質の安定化が難しい
- 適正な評価が困難
- ナレッジやノウハウが蓄積されない
これらの問題は、企業全体の生産性や成長に悪影響を与えるため、解消が必要です。
業務効率が下がる
属人化した業務は、担当者以外が内容を把握していないため、改善や効率化が困難になります。外部からの客観的な評価も受けにくく、非効率な作業が放置される可能性もあるのです。
特定の担当者に業務が集中することで、長時間労働や過度な負担が生じ、パフォーマンスの低下や離職につながるリスクも高まります。
業務停滞のリスク
担当者が不在になった場合、他の社員が業務を代行できないため、業務が停滞するリスクがあります。病気や急な休暇など、予期せぬ事態が発生した場合、納期遅延や顧客への対応遅れなど、深刻な問題を引き起こす可能性があります。
品質の安定化が難しい
属人化した業務は、標準化された手順やマニュアルが存在しないことが多く、品質にばらつきが生じやすくなります。担当者のスキルや経験に依存するため、品質の維持や向上が難しく、ミスやトラブルが発生する可能性も高まります。
適正な評価が困難
属人化した業務では、上司が業務内容を詳細に把握できないため、担当者のパフォーマンスを適切に評価することが困難になります。結果として、不公平な評価やモチベーションの低下、優秀な人材の流出につながる可能性があります。
ナレッジやノウハウが蓄積されない
属人化した業務で得られた知識やノウハウは、担当者個人に留まり、組織全体で共有されません。これにより、組織としての学習や成長が阻害され、担当者が退職した場合、貴重なノウハウが失われるリスクがあります。
これらのデメリットを踏まえ、属人化の解消は企業にとって喫緊の課題と言えるでしょう。業務の標準化や情報共有、人材育成などを積極的に進めることで、組織全体の生産性向上と持続的な成長を実現できます。
わざと?意図的に属人化を進める理由とは
属人化は一見すると組織にとってデメリットが多いように見えますが、わざと属人化を引き起こす人や職場も存在します。ここでは、その理由を詳しく見ていきます。
自身の存在意義を強調したい
業務の属人化は、特定の人が自分の職場での存在価値を高めるために利用する手段としてよく見られます。
自分だけが特定の業務を処理できる状態を維持することで、周囲から頼られ、評価されていると感じるため、満足感を得やすいのです。このような人は、組織全体に属人化が与える問題よりも、自分の評価を優先する傾向が強いため、情報やノウハウの共有に消極的です。
結果として、属人化の解消には非協力的であることが多く、主体的に解決することが難しくなります。
新しい変化に対する抵抗感
職場内で属人的な仕事の進め方が、慣習として根付いているケースもあります。特に変化や新しいことに不安や抵抗を感じる人は、現状維持を好む傾向があり、属人化した業務を続けることで、慣れたやり方での仕事を維持しようとします。
例えば、ベテラン社員の中には、新しいツールや手法を学ぶよりも、今までどおりの仕事の進め方を選びたがる人が少なくありません。属人化が職場にとって長期的には不利だと分かっていても、変革への第一歩を踏み出せないために、属人化が維持されてしまうのです。
組織が責任を回避したい場合
属人化は、管理者やリーダーが責任逃れをするために利用されることもあります。特定の個人に業務の権限を集中させることで、上司や他の社員はその業務に対する責任を避けることができるためです。
問題や失敗が起きた際に、その責任を特定の個人に転嫁することで、組織全体がリスクから逃れようとする場合もあります。このような状況は、組織全体の対応力や危機管理能力を低下させ、長期的な問題を引き起こす要因となります。
属人化が生まれる背景とは?
属人化が生じる原因はいくつかあります。
- 業務量が多く、共有の余裕がない
- 高度な専門知識が求められる業務
- 標準化に対する消極的な姿勢
- 情報共有を促す仕組みが不十分
- 不十分な引継ぎによる属人化
- レガシーシステムがもたらす属人化
これらの原因を理解することで、属人化の解消に向けた具体的な対策が立てられます。
業務量が多く、共有の余裕がない
担当者が日々の業務に追われ、業務の進め方やノウハウを他のメンバーに伝える時間がない場合、属人化が進行しやすくなります。また、人手不足によって業務量が過剰になり、共有する相手がいない場合も属人化の原因となります。
業務の負担が特定の社員に集中することで、他の社員が業務の詳細を把握できなくなり、結果として業務が一人に依存する状態に陥ります。
高度な専門知識が求められる業務
一部の業務は、特殊なスキルや豊富な経験を必要とするため、マニュアル化や標準化が難しいことがあります。こうした専門性の高い業務では、画一的な手順書を作成することが難しい上に、教育コストや期間がかかるため、属人化が進行しやすい状況が生まれます。
例えば、IT分野や高度な技術を要する業務などでは、特定の社員に依存する状況が長期間続くことがあります。
標準化に対する消極的な姿勢
自分だけができる業務を抱えることで社内における立場を維持しようとする心理も、属人化の要因となります。
従業員が標準化や業務の共有に消極的な場合、自分のやり方が指摘されることを恐れたり、他の社員に知識を渡すことで自分の価値が下がると感じたりすることがあります。このようなケースでは、標準化が進まないまま業務が属人化していく傾向があります。
情報共有を促す仕組みが不十分
情報共有のためのワークフローやツールが整備されていない職場では、情報共有が滞りやすくなります。
例えば、グループウェアやチャットツールを導入していない場合、情報共有に時間と手間がかかるため、属人化が進みやすくなります。また、情報共有を奨励する組織文化や評価制度が整備されていないと、従業員が積極的に情報を共有しなくなり、結果として属人化が生じてしまいます。
不十分な引継ぎによる属人化
前任者からの引継ぎが不十分だと、後任者が自ら業務の進め方を確立しなければならなくなります。このような状況では、後任者が独自のやり方を編み出し、それが他の社員に共有されないため、業務が属人化してしまいます。
引継ぎが不完全であれば、業務の継続性や効率が損なわれるリスクも増大します。
レガシーシステムがもたらす属人化
レガシーシステムとは、老朽化し複雑化した既存のシステムのことです。このような古いシステムを維持していると、特定の社員だけが保守や運用を担当できる状況となり属人化が進みます。特にIT分野では、古いシステムに依存することで、新たな技術やシステムの導入が遅れ、業務全体の効率が低下します。
経済産業省も、企業がレガシーシステムから早期に脱却することの重要性を訴えており、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を妨げる要因として問題視されています。
属人化解消(業務の標準化)のメリット
業務の標準化を進めることで、属人化を解消し、組織全体に多くのメリットをもたらすことができます。
- 業務効率の向上
- ノウハウの共有による組織の成長
- 品質の安定化
- テレワーク時代への対応力強化
- 人材流動化への柔軟な対応
ここでは、標準化による代表的なメリットを紹介します。
業務効率の向上
業務を標準化することで、複数人が業務の進め方を把握できるようになり、担当者一人では見落としていた問題点を見つけやすくなります。
もしも特定の手順や方法が非効率であることが明らかになれば、改善が進みやすくなります。また、業務が特定の人に偏ることなく分散され、ボトルネックが解消されることで、業務の停滞を防ぎ、全体的な効率向上につながります。
業務効率化の手法については、こちらの記事をご覧ください。
ノウハウの共有による組織の成長
属人化している業務では、担当者が退職した際にその人の持っているナレッジやノウハウが失われるリスクがあります。しかし、業務を標準化することで、ナレッジやノウハウが組織全体に広まり共有されます。
標準化された業務は、新入社員や異動してきた社員にもスムーズに引き継ぐことができ、スキルや知識の継承が効率的に行われます。これにより、組織全体の知識レベルが向上し、継続的な成長を支える基盤が築かれます。
品質の安定化
業務を標準化することで、適切な手順に沿って業務が進められているかを第三者が確認できるようになり、品質の一貫性を保つことができます。
また、担当者が不在の場合でも、他の社員がマニュアルに従って業務を代行できるため、品質を維持しながら対応できます。こうした取り組みは、顧客満足度の向上や業務の信頼性向上にもつながります。
テレワーク時代への対応力強化
テレワークの普及により、従業員の業務状況や進捗をオフィス勤務時と同じように把握するのが難しくなるケースがあります。業務の標準化を進めることで、業務内容や手順が明確になり、テレワークでも適切に進捗を管理することができます。
また、マニュアルや標準化されたプロセスを活用することで、テレワーク環境でも安定した業務遂行が可能となります。
人材流動化への柔軟な対応
近年、働き方改革やジョブ型雇用の導入により、企業内での人材の流動性が高まってきています。
属人化した業務では、人材の入れ替わりや異動があった際に大きなリスクとなりますが、業務が標準化されていれば、新たに配属された社員もすぐに業務に対応でき、流動的な人材環境にも柔軟に対応できます。
特に、業務の手順やノウハウがしっかりと記録・共有されている組織は、変化に強い企業としての競争力を維持できるでしょう。
属人化解消を成功させるための具体的ステップ
属人化を解消するためには、計画的かつ継続的な取り組みが必要です。ここでは、属人化解消を成功させるための具体的ステップを、5つのポイントを挙げて紹介します。
1.ワークフロー(業務の流れ)の可視化
まず、業務の流れや関連する部署・担当者、やり取りされる情報(文書・データなど)を洗い出し、フローチャート化することが重要です。
業務を図式化することで、どの部分がボトルネックになっているのか、業務が特定の個人に集中していないか、業務の流れをシンプルにできるかなどを分析し、改善策を見つけることができます。業務の全体像を可視化することで、属人化の原因を把握しやすくなり、対策が講じやすくなります。
2.手順書・マニュアル作成
フローチャートよりも具体的な業務内容は、実際の担当者が手順書やマニュアルを作成することが重要です。業務を知らない社員でも理解できるように、業務の進め方や注意点、ノウハウを細かく言語化します。
手順書やマニュアルは、属人化を防ぐだけでなく、業務の質を一定に保つための重要なツールです。また、新たな従業員が入社した際にも、早期に業務に慣れてもらうために役立ちます。
マニュアル作成ツールについては、こちらの記事を参考にしてください。
3.継続的な評価と改善
一度標準化した業務でも、実際に運用していく中で新たな問題点や改善点が出てくることがあります。定期的に業務の評価を行い、フローチャートや手順書を更新・改善していくことが重要です。
これにより、常に最新の業務状況に対応でき、属人化のリスクを最小限に抑えることができます。継続的な改善は、業務の効率性や質の向上にも寄与します。
4. 情報共有の仕組みを整備
情報共有が十分に行われていない場合、属人化が進行しやすくなります。そのため、情報共有を効率化するためのITシステムやツールの導入が重要です。
例えば、クラウドベースの文書管理システムやチャットツールを活用することで、情報をスムーズに共有できる環境を整えます。また、積極的に情報を共有したくなるような社風を醸成したり、人事評価制度で情報共有を評価対象とするなど、社員が自発的に情報共有を行う体制を整えることも重要です。
5. 業務引継ぎの徹底
属人化の一因となる不十分な引継ぎを防ぐためには、組織変更や人事異動、従業員の入退社時に、引継ぎを徹底することが重要です。
日常的に業務の手順書やマニュアルを更新しておくことはもちろん、引継ぎが決定したら、十分な時間を確保し、可能であれば対面での引継ぎを行うと効果的です。
引継ぎ後も、後任者が業務を円滑に進められるよう、サポート体制やフォロー期間を設けることで、属人化を防ぎ、スムーズな業務の継続が可能となります。
実際に属人化解消を成功させた事例
属人化解消の取り組みは、企業や行政機関でも成功を収めています。ここでは、オムロン株式会社と千葉県庁の具体的な事例を紹介します。
オムロン株式会社
オムロン株式会社は、コンタクトセンターにおけるナレッジマネジメントの導入によって、属人化の解消に成功しました。オートメーション技術をリードするオムロンは、取扱製品数が28万点にも及び、製品やサービスの対応の質を維持することが課題でした。
カスタマーサポート部のコンタクトセンターでは、以下の施策を通じて属人的な業務運用から脱却し、品質の均一化を実現しました。
- 内部ナレッジの整理:製品やサービスに関する情報を一元化し、誰でも利用できるように整備。
- ナレッジ活用の運用設計:ナレッジを活用した効率的な運用フローを設計。
- 業務の標準化:オペレーター全員が同じ手順で業務を遂行できるよう、業務を標準化。
- オペレーターの負担軽減:煩雑な業務を削減し、より価値の高い業務に集中できる体制を整備。
これにより、オムロンは属人化を解消し、コンタクトセンターの品質向上と効率化を達成しました。この成功事例は、製品やサービスが多様な企業における属人化解消の手法として、ナレッジマネジメントの有効性を示しています。
参照元:株式会社ベルシステム24ホールディングスのプレスリリース
千葉県庁
千葉県庁は、業務効率化と県民サービスの向上を目的に、株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルティングを導入し、属人化解消に取り組みました。総務部、健康福祉部、県土整備部の3つのモデル職場を対象に、以下の施策を実施しました。
- 「朝メールドットコム」による働き方の見える化:県庁職員の働き方を可視化し、どの業務が属人的になっているかを把握。
- 「カエル会議オンライン」を活用した業務の属人化改善:定期的に会議を開き、業務の偏りや属人化を解消。
- 情報共有の円滑化:デジタルツールを活用し、情報共有をスムーズに進める体制を構築。
- 業務マニュアル作成:属人化の解消を目指し、業務手順書を整備。
■朝メールドットコムとは
朝メールドットコムは、 各社員が朝の出社時に 1 日の業務予定を立て、クラウド上で、上司・同僚に共有した後、終業 時にそれを振り返ることで時間の使い方や業務の進捗を”見える化”するサービスです。■カエル会議オンラインとは
カエル会議オンライン®は、 働き方の見直しを推進する「カエル会議®」の議題やタスク管理をオンラインで完結で きるサービスです。
この取り組みは、令和4年7月から令和5年2月にかけて行われ、職員一人ひとりの生産性と働きがいの向上を目指しています。千葉県庁のデジタル改革推進局長、野溝慎次氏は「デジタルを活用して庁内業務を効率化し、県民へのサービス向上を目指す」と述べています。この事例は、自治体における属人化解消と業務改善の好例として注目されています。
参照・引用元:【プレスリリース】働き方改革ならワーク・ライフバランス
まとめ
属人化は、業務効率や品質の低下、リスクの増大など、組織に大きなデメリットをもたらします。しかし、業務の標準化やナレッジマネジメントを導入することで、属人化を解消し、効率的で安定した業務運営が可能になります。また、長期的な視点で継続的に評価・改善を行うことが、組織全体の成長に繋がります。
今後、属人化を解消し、持続可能な業務体制を整えるために、まずは自社の業務フローを可視化し、業務の標準化に取り組んでみましょう。小さな改善を積み重ねることが、大きな変革への第一歩です。今すぐ、業務の可視化と改善に取り組み始めましょう!
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