近年、働き方改革が進む中で「残業削減」は企業にとって避けて通れないテーマとなっています。しかし、残業を減らすのは容易ではありません。ただ残業時間を減らすだけでは、かえって従業員の負担が増える可能性もあります。
そこでこの記事では、残業を削減するメリットや残業が減らない理由、残業削減のアイデアなどを解説します。ぜひ参考にして、早く退勤できる職場をつくりましょう。
残業を減らす重要性やメリット
働き方改革関連法の施行により、2019年ごろから残業時間（時間外労働時間）は原則として月45時間、つまり年間360時間が上限となりました。
一般的な会社員を想定すると、週休2日であれば1日の残業時間を約2時間以内に抑えるのが目安となります。このように法令遵守のためにも残業時間の削減は非常に重要です。
また、そのほかにも残業を削減するメリットは以下のように多数あります。
生産性が向上する
残業が常態化すると、従業員は時間内に業務を終わらせる意識が希薄になります。一方で、残業を削減する取り組みを導入すれば、業務を効率的に進める文化が醸成されます。
残業を減らしてできるだけ定時で帰るためには、限られた時間で成果を上げなければなりません。そのため、業務の優先順位を見直し、タスクの整理や無駄な作業を減らす努力が進むため、結果として生産性の向上が期待できるのです。
ワークライフバランスが改善する
従業員にとって、長時間労働はプライベートの時間を犠牲にする原因となります。しかし、残業を減らせば、家族や友人と過ごす時間や、自分自身のための時間が増えるでしょう。
また、過労を防いで健康的にも過ごせるはずです。このようにワークライフバランスが改善されれば、従業員のモチベーションや業務への集中力が高まり、ひいては企業の成果にも良い影響を与えます。
特に働き方改革が進む現代では、個人の生活と仕事の両立はますます重要視されるでしょう。
残業によるコストをカットできる
残業が増えると、時間外手当などの人件費ががかさむのは必至です。このコストは企業の利益を圧迫し、財務面での負担となりえます。
しかし、残業を減らせば、無駄なコストを削減でき、経営の健全化に寄与するでしょう。また、残業の削減により、従業員の生産性が高まり、結果としてコスト削減以上の利益を生む可能性もあります。このように経営資源をより効率的に使うためには、残業削減が欠かせません。
離職率が低下する
長時間労働が続く職場では、従業員の疲労が蓄積し、離職率が高まる傾向にあります。しかし、残業削減によって働きやすい環境が整えば、従業員の定着率が向上し、離職を防ぎやすくなるでしょう。離職率が低下して人材が確保されれば、採用や教育コストも抑えられます。
また、優秀な人材ほど、健康や生活の質を重視する場合が少なくありません。そのため、残業が少ない企業に優秀な人材が集まりやすくなります。このように、企業の持続的な成長のためにも、離職率の低下は非常に重要なのです。
残業が減らない理由
企業が残業を削減したくても、なかなか減らないのにはいくつかの理由があります。
業務量やコミュニケーションの問題、会社の雰囲気などが主な理由です。以下でそれぞれ解説します。
業務量が多い・人手不足
残業が減らない大きな要因として、過剰な業務量や人手不足が挙げられます。
特に、プロジェクトが集中する繁忙期や重要な業務が重なる時期には、どうしても仕事が時間内に終わらず、従業員が残業を強いられる場合もあるでしょう。
また、人手が足りない場合は、一人一人の従業員にかかる負担が増え、結果として残業が常態化しかねません。
このように、マンパワーが不足している、業務量過多な場合では残業を減らすのは難しいでしょう。
コミュニケーション不足
社内でのコミュニケーション不足も、残業を引き起こす原因の1つです。特に、上司と部下の間で業務の進捗や優先順位についての共有が不十分だと、業務がスムーズに進まずに時間がかかってしまう場合もあります。
また、部署間での連携が取れていない場合、業務の重複や手戻りが発生し、それが残業につながることもあるでしょう。
このように、コミュニケーションが不十分で進行状況の把握ができていないと、時間内に終わらせる指示も出しにくいものです。
業務が非効率
業務の進め方が非効率である場合も、残業が発生しやすくなります。
例えば、手作業が多い業務、報告や会議が多いなどの理由から時間内に仕事を終わらない場合もあるでしょう。また、業務プロセス自体に無駄が多い場合も、効率的な作業ができずに残業が増える原因となります。
さらに、属人化した業務があると、その人がいない場合に時間がかかってしまい、結果的に非効率的になりかねません。
このように、業務の無駄や属人化などにより時間がかかり残業となってしまう場合があります。
1人だけ先に帰りづらい雰囲気
職場の文化や雰囲気も、残業の一因となります。特に、日本の企業文化では、周囲が残業している中で1人だけ先に帰ることが「気まずい」と感じる従業員も少なくありません。
このようなプレッシャーは、無意味な残業を生み出す要因となります。職場全体で「早く帰ることが推奨される」文化を醸成し、従業員が時間内に仕事を終えて退勤できる環境を整えることが重要です。
残業を良しとする文化があると、早く帰れないのは必然といえるでしょう。
残業削減のアイデア〜成功事例を交えて〜
残業削減は、多くの企業にとっての課題であり、さまざまな取り組みがされています。ここからは、成功事例を交えながら、残業削減に向けた具体的なアイデアを紹介します。自社の残業が減らない原因を見つけたうえで、残業削減施策を実践しましょう。
残業の事前申請制度を設ける
残業を減らすために効果的な施策の1つとして、残業する前に事前申請を必須とする制度を設けると良いでしょう。
事前に申請して承認されなければ残業ができないため、残業の常態化を防ぎやすくなります。また、「今月の残業時間は〇〇時間以内」と個人で目標を決めるのも良いかもしれません。
事例としては、事前申請制度のほかに、残業チケット制度を導入している企業もあります。
このような制度を導入することで、上司も従業員の業務負荷をリアルタイムで把握でき、効果的なタスクの振り分けも可能となるでしょう。
出典：ピコナ｜WELFARE
業務効率化を図る
業務プロセスを見直し、効率化を図ることも残業削減には不可欠です。
具体的には、ITツールの導入や業務の自動化によって、時間のかかる手作業や重複した作業を減らせます。また、業務の属人化が生じているなら、マニュアル作成も効果的です。
不要な業務の削減や見直し、属人化の解消などにより、業務の効率化を進められるでしょう。
マニュアル作成についてはこちらの記事で解説しています。
残業ができない環境をつくる
残業を物理的にできない環境を整えることも1つの方法です。
具体的には、オフィスの消灯時間を設定する、PCやシステムへのアクセス制限を設けるといった、強制的に退勤を促す環境をつくる方法もあるでしょう。
毎日設定された時間になると、PCが自動でシャットダウンされるシステムも多数提供されています。大胆な施策ですが、物理的に残業できない仕組みをつくってしまうのも有効といえるでしょう。
会議の削減や見直しをする
無駄な会議が残業の原因となっていることも少なくありません。
その場合は、会議自体を見直し、頻度や時間、内容を精査して残業削減につなげましょう。
会議の内容が報告メインであれば、会議自体をなくしても良いかもしれません。また、報告であれば、ツールの活用も効果的です。社内チャットツールは多数提供されているため、導入すれば会議の削減や時間の短縮も可能でしょう。
会議の際は「会議でしか解決できないこと」に焦点をあてて議論したいものです。
残業削減による報酬を設ける
残業を減らすためにインセンティブを設けるのも効果的です。残業削減に成功した従業員に報酬を与えることで、残業を減らす意識が高まります。
事例としては、残業を減らしたことで削減された残業代を賞与に上乗せするといった企業もあります。早く退勤できるうえ、賞与が増えるなら、従業員もモチベーションも上がるものです。すると、従業員は自主的に業務を効率化し、残業を減らすように取り組みます。結果として、会社全体で残業削減が進み、生産性も向上する好循環が生まれるのです。
残業削減施策を行う際の注意点
残業削減を効果的に進めるためには、単に労働時間を短縮するだけでは不十分です。従業員の負担を軽減し、生産性を維持しながら残業を減らすためには、いくつか注意点があります。失敗事例を通しておさえておくべきポイントについて解説します。
時間だけを制限しない
残業削減の施策を行う際に、時間だけを制限するのは避けるべきです。単に「残業を減らす」と目標を掲げても、業務が適切に進まないと、従業員に過度な負担を強いることになりかねません。
例えば、残業時間を厳しく制限した結果、従業員が仕事を持ち帰る、昼休みや休憩時間を削るといった行動を取る場合があり、これでは本末転倒です。時間だけを減らそうとせずに、根本的な原因を究明して、どのような取り組みをすれば残業を減らせるのかを考えましょう。
残業削減の意図を共有する
残業削減施策を実施する際には、従業員にその意図をしっかりと共有することが大切です。
従業員に残業削減の目的を周知しないと、「残業代・給料が減る」と不満を持つ人や残業を美徳とする人が反発する恐れがあります。
例えば、残業削減が「効率的な働き方の実現」や「従業員のワークライフバランスの向上」を目指していることを、具体的に説明すると良いでしょう。定期的な社内のコミュニケーションやミーティングを通じて、残業削減の意図や期待する成果を伝えることが不可欠です。
業務時間外に対応させない
残業削減を進める際は、従業員に業務時間外対応をさせないようにしてください。
例えば、勤務時間外に上司からのメールやチャットに対応することが常態化していると、見かけ上は残業時間が減っても、実際には従業員の業務負荷が変わりません。これでは、残業削減の効果が薄れるばかりか、従業員のストレスも増大します。
そのため、明確な業務時間の区切りを設け、時間外に仕事の対応を求めない風土づくりが大切です。管理職が率先して時間外の連絡を控えるなど、従業員が安心して業務を終えられる環境を整えましょう。
まとめ｜残業を削減して生産性をアップさせよう
残業削減は、単に労働時間を短縮するだけでなく、従業員の健康やモチベーションを守り、企業の生産性を向上させるために不可欠な取り組みです。
業務量の見直しや効率化に加え、従業員が納得して協力できる環境を整えることで、残業削減を達成しやすくなるでしょう。また、時間外の対応を避けるなど、業務とプライベートのバランスを保ちながら、持続的に働きやすい職場を築くことが大切です。企業が適切な残業削減策を導入すれば、従業員の満足度と生産性の両方を高められ、長期的な成長にもつながるでしょう。
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